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派遣先会社で遠隔操作か 匿名化ソフト使用の形跡 PC遠隔操作

 遠隔操作ウイルス事件で、威力業務妨害容疑で逮捕されたIT関連会社社員、片山祐輔容疑者(30)=東京都江東区=が勤務先から派遣されていた会社のパソコン(PC)に、匿名化ソフト「Tor(トーア)」が使用された形跡があったことが11日、捜査関係者への取材で分かった。

逮捕容疑となった昨年8月の同人誌イベントでの殺害予告はトーアを使って書き込まれており、警視庁などの合同捜査本部は、片山容疑者が派遣先のPCから書き込んだとみて、家宅捜索で派遣先からPCなど11台を押収して解析を進めている。

 捜査関係者によると、殺害予告は昨年8月9日午前10時40分ごろ、トーアを使って愛知県内の会社のPCが遠隔操作されて書き込まれた。片山容疑者の派遣先のPCにも同じ時間帯にトーアが使用された形跡があり、片山容疑者も社内で勤務中だったとみられる。

 片山容疑者は「(愛知県内の)会社を知らない」と容疑を否認している。

 真犯人は犯行声明で、同人誌イベントを含む13件の犯行予告を行ったと説明。記録媒体内に残された文書では「全てトーアで書き込んだ」としていた。派遣先のPCには他にも複数回トーアが使用された形跡があり、合同捜査本部は片山容疑者が真犯人で、このPCから一連の犯行予告が書き込まれたとみている。

 勤務先のIT関連会社によると、片山容疑者は平成20年2月に入社し、取引先に派遣されてアプリの開発を担当。昨年3~9月には東京都港区のIT関連会社で勤務していた。真犯人は同6~9月、平日の昼間の時間帯を中心に犯行予告を繰り返していた。

ちらつく過信と自己顕示欲 片山容疑者、現実空間に現れて墓穴? PC遠隔操作

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遠隔操作を行っていた直接的な証拠がない中、警視庁などが片山祐輔容疑者の逮捕にこぎ着けた。逮捕前日の9日夜まで「早期逮捕」を主張する警察と、「時期尚早」とする検察がぶつかり合う一方、片山容疑者は同じ日、後手後手の捜査を感じ取っていたかのように東京・浅草の「ネコカフェ」にいた。「サイバー空間」から「現実空間」に姿をさらすミスを犯したとみられる片山容疑者。その心中には「過信」と「自己顕示欲」がちらつく。

 片山容疑者は9日、放し飼いにされたネコと自由に触れ合える空間で、ネコを抱きかかえ、猫じゃらしで遊ぶ姿が目撃されていた。2日前にも別のネコカフェを訪問。店の従業員は「ほかの客との接点はなかった」と振り返る。

 真犯人は動機やウイルスの「設計図」など、証拠が詰まった記録媒体を「現実空間」である江の島のネコに託した。防犯カメラにはネコと片山容疑者が戯れる様子が写っていたという。

 片山容疑者は、都内の名門私立中高を卒業後、理工系大学を中退。専門学校でパソコンを学んでいた平成17年には、大手レコード会社社員への殺害予告事件で逮捕された。「『のまネコ』の使用を即時中止しろ。さもなくば社員を刃物で殺害する」。レコード会社のネコを模したキャラクターが、ネット掲示板「2ちゃんねる」に登場するネコのイラストに似ているとしてネット上で要求した。

 両事件に共通するのは強い「自己顕示欲」だ。犯罪心理学に詳しい元東海学院大教授の長谷川博一氏は「人間関係が希薄で、思考や好みが偏りやすい性格」と推察。「人間関係が苦手な部分を、ネコで補っていたのではないか」と指摘する。

 20年2月から勤務しているIT関連会社によると、片山容疑者は昨年12月から病気を理由に休職。社長の目にも「マニアックで思い込みが強い」と見えた。

 報道機関などに送りつけられたメールは、警察を小ばかにする内容が徐々にエスカレートした。長谷川氏は「自己顕示欲が強まり、ミスするまで警察への挑発を続けざるを得なくなったのではないか」と話した。

追い詰めたのは最新鋭防犯カメラ 捜査員「なかったらと思うと…」 PC遠隔操作


「サイバー空間」を浮遊し、遠隔操作ウイルスという新たな手口で、警察を翻弄し続けた片山祐輔(ゆうすけ)容疑者(30)。だが、最後は「現実空間」の防犯カメラに追い詰められた。警視庁などの合同捜査本部は、記録媒体が見つかった神奈川県藤沢市の江の島の防犯カメラを徹底解析し、ついに片山容疑者の“しっぽ”をつかんだ。

 「この防犯カメラの性能はすごい。これがなかったらと思うとぞっとする」

 1月中旬ごろ、合同捜査本部の捜査員は、江の島に設置された防犯カメラの映像が送られるモニター室で、地元の関係者に向かって興奮気味に、こうまくし立てた。江の島には昨年12月下旬、商店街での万引防止などを目的として、最新鋭の防犯カメラ35台が設置されたばかりだった。

 ▼「現実空間」に姿 

 カメラは全て国内の大手メーカー製。特に人通りの多い場所に設置された3台は360度を見渡せる半球状で、「カメラに写らずに島内を歩くのは不可能」。ネコの写真が撮影された高台の広場にも、そのうちの1台が設置されていた。

 同じメーカーの一般的な防犯カメラの画素数は3メガピクセルで、ハイビジョンテレビ並みに鮮明な映像で録画が可能。暗視装置付きで夜間でもはっきりと人物を確認できる。映像は24時間撮影を続けても、1カ月間保存されるという。 

 

オタクに人気のライトノベル作者らを脅迫した男の趣味

若者や“オタク”を中心に人気を集めるライトノベル「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の作者で、小説家の伏見つかささん(31)に脅迫メールを送りつけたとして4月、脅迫容疑で32歳の男が警視庁麹町署に逮捕される事件があった。警視庁によると、男はこの小説の熱烈なファンで、ストーリー展開に納得がいかず脅迫行為を繰り返していたとみられ、小説に出てくる「妹」に“恋”にも近い感情を抱いていたという。事件も一種の愛情表現だったようだが…。

 ■死ね、後悔させてやる…人気小説家に繰り返された脅迫

 《死ね詐欺師》《舐めたことぬかしてきたの後悔させてやる》

 こうした脅し文句を連ねたメールが伏見さんあてに届くようになったのは、昨年11月。アドレスは伏見さんが公式ブログで公開していたものだったが、内容は徐々にエスカレートしていった。

 《探偵雇ってでもお前ら詐欺師の住所を割り出してやる》

 送られてきたメールは計500通以上。中には、ブログに公開されていた伏見さんや、出版社の男性社員の写真を勝手に修整した画像が添付されていたメールもあった。2人の首が切断され、血まみれになっているように加工された画像は、とてもイタズラでは済まされない不気味さがあった。 


不安を感じた出版社の社員は警視庁麹町署に相談し、被害届を提出。メールの内容から、同署は、伏見さんの「俺の妹が--」の熱狂的ファンによる犯行の疑いがあるとみて捜査を始めた。脅迫容疑で逮捕、起訴された徳島県阿南市の無職、青井昇被告(32)は当初の見立て通り、「俺の妹が--」のファンだった。

 ■「好きなキャラクターが…」「黒猫の死体を…」

 「俺の妹が--」は、アニメやゲームなどのオタク趣味を隠し持つ中学生の妹と、その趣味に振り回される兄を描いた作品で、アニメ調の挿絵が多く盛り込まれ、テレビでアニメ化もされた人気作品。文庫本10巻のシリーズで、平成20年に発売後に累計370万部が発行されている。

 「自分が好きなキャラクターの扱いが、ないがしろにされていると思った」

 警視庁の調べに対して、青井被告は容疑を認めて、こう供述したという。

 青井被告の好きなキャラクターとは、中学生の妹「高坂桐乃(きりの)」だったという。小説に出てくる兄「高坂京介」は、桐乃に気をとられる一方、「黒猫」と呼ばれる別の女性とも交際しているという設定だが、青井被告は調べに対して「黒猫ばかりが目立つ展開に納得がいかなかった」と憤懣(ふんまん)やるかたない様子で供述したという。

 怒りの矛先は、小説のキャラクター「黒猫」と出版社、そして作者である伏見さんへ向けられた。確認された脅迫メールの中には《顔面に黒猫の死体叩きつけてやりたい》という一文があったという。

 ■いわゆるオタク? ライトノベルへのこだわり

 捜査関係者によると、青井被告には妻や子供はなく、徳島県の実家で母親と2人暮らしをしていた。「俺の妹が--」だけではなく、アニメ調の挿絵が入ったライトノベルのさまざまな作品に詳しく、強いこだわりも持っており、ある捜査関係者は「世間一般でいう『オタク』といえるのではないか」と話す。

 精神科医で東工大教授の影山任佐氏(犯罪精神医学)は「熱心なファンは、作品やキャラクターへの一体感が強い。作者側を脅すことで、作品の展開に自分自身が介入したり、キャラクターと同一化できると考えてしまったのではないか」と分析する。

 ■海外のサーバー経由 ネット社会で高まる危険

 青井被告は、パソコンやインターネットについても知識を持っており、脅迫メールの多くも海外のサーバーを経由するなどして送信されていた。

 自分から送信したことを隠す目的だったとみられるが、捜査関係者は「あまりに手が込んでいて悪質。出来心にしても、度が過ぎている。オタクによる『サイバー攻撃』と言っても過言ではない」とまゆをひそめた。

 過去にも、小説やフィクション作品に入れ込んだファンから、脅迫文が届くという事件は何度もあった。最近では、住所や連絡先を隠したり、限定的な公開にしたりと対策は進んでいるようだが、捜査関係者は「以前は脅迫文のような手紙が中心だが、最近は公開されたメールやインターネットサイトを対象に多くのメールを送りつけることができるため、脅迫や中傷行為へのハードルは下がっているのではないか」と警鐘を鳴らす。 

 

捜査の壁にいらだつ捜査本部「ネコに首輪つけただけ」 ウイルス一致で急展開

「ネコに首輪をつけただけで、何の罪に問えると言うんだ」

 警視庁と大阪府警、神奈川、三重両県警の合同捜査本部はいらだっていた。

 遠隔操作ウイルス事件の威力業務妨害容疑で逮捕された東京都江東区の会社員、片山祐輔(ゆうすけ)容疑者(30)の存在は1月中旬、既に浮上していた。

 同月5日に産経新聞記者などに送りつけられた「真犯人」からのメールに、神奈川県藤沢市の江の島のネコに首輪をつけたことを示唆する内容があり、防犯カメラの解析から片山容疑者が特定されたのだ。

 「上層部が、『早く逮捕しろ』と注文をつけてきた。だが、防犯カメラで判明したのは、ネコに首輪をつけた人間であって、誤認逮捕してしまった4人のパソコン(PC)を遠隔操作した人物そのものではない。そんないらだちが、現場の捜査員にはあったんです」

 警察関係者は、こう打ち明ける。

 だが、警察は4人を誤認逮捕した上、2人には自白まで強いたことで、異例の謝罪や捜査の検証結果公表を余儀なくされたため、“メンツ”を保ち、起死回生を図りたい思いがあり、それが警察上層部の早期逮捕の指示の背景にはあった。

 ■ウイルスが一致 


 「いくつかの新聞社やテレビ局が、片山(容疑者)の存在に気付きつつあるようだ」

 警察幹部は、焦りを募らせていた。2月に入ると、片山容疑者が「ネコに首輪をつけた人物」として特定されたことに、報道各社が気付き、片山容疑者宅周辺の取材に動いていた。

 だが、ウイルスの設計図とされる「ソースコード」を記録したマイクロSDカード(記録媒体)付きの首輪をネコにつけるよう、「知らない男に頼まれた」と片山容疑者が“言い訳”をすれば、それを覆すだけの材料を、合同捜査本部は持ち合わせていなかった。

 それだけに、逮捕への決め手がないまま片山容疑者の存在を報道されることを、警察幹部は恐れた。

 「片山(容疑者)がウイルスの『設計図』を持っていたことなどを根拠に、ウイルス保管罪の適用も考えました。でも、ウイルス保管罪は他人に“感染”させる目的があることを立証する必要がある。検察は首を縦に振りませんでした」

 警察関係者は現場の苦悩を、こう振り返った。

 しかし、ウイルスが愛知のPCを遠隔操作していたものと一致したことで、捜査は急転直下で進展することとなったという。

 ■大きな十字架に

 警視庁には現在、「捜査支援分析センター」という聞き慣れない部署がある。

 平成21年4月の組織改編で刑事部に置かれたものだが、その任務の中核の一つが「画像解析」だ。 >

 昨年11月に東京都板橋区で主婦が刺殺された強盗殺人事件など、あまたの事件で防犯カメラが威力を発揮しており、その画像を解析して、事件解決に貢献しているのが、同センターなのだ。

 「2005(平成17)年にロンドンで起きた同時爆破テロでも、防犯カメラが威力を発揮した。防犯カメラは、捜査ツールとして世界中で必要不可欠なものとなっています」(捜査幹部)

 だが、一方で遠隔操作ウイルス事件は、後手後手にまわったサイバー捜査に大きな課題も突き付けた。

 警察幹部はつぶやく。

 「結局、従来通り防犯カメラに頼って容疑者にたどり着く捜査になってしまった。サイバー捜査で容疑者を割り出せなかったことは、警察にとって大きな十字架になるかもしれない」

 前代未聞の誤認逮捕を生んだ遠隔操作ウイルス事件が、全容解明に向けて大きく動いた。汚名返上を図りたい警察当局の捜査は、どう進められたのか。その流れを追ってみた。 

 

自称IQ150、ゲームオタクが知恵を絞った愚かな商売

違法コピーのゲームソフトを携帯ゲーム機「プレイステーション・ポータブル(PSP)」で使えるようにする改造プログラムを販売したとして、不正競争防止法違反(技術的制限解除装置等の販売)の疑いで今年4月、無職の男が栃木県警に逮捕された。昨年12月の法改正以降、同容疑が適用されるのは全国初。自称「IQ150」の男が知恵を絞った愚かな商売とは。

 「なんで俺だけが…」

 栃木県警生活環境課と足利署によると、逮捕されたのは足利市大前町の無職、清水優一被告(29)=同罪で起訴。起訴状などによると、清水被告は今年1月13日から3月1日までの間、インターネットのオークションサイトで、改造プログラムと中古PSPを東京都内の男性らに1セット約1万5000円で販売したとされる。

 清水被告が販売した不正プログラムは、PSPのチェック機能を作動させなくすることで違法コピーソフトを使用できるようにするというもの。しかし、反省の色は薄い。容疑を認めているものの、「なんで俺だけが逮捕されるのか!?」と悪びれた様子もないという。

 捜査関係者によると、実際、改造プログラムはネット上から無料で不正取得することができるという。改造プログラムとPSPのセット商品も、ネットオークションなどで“違法販売”されていることが少なくない。 


 ■“カネ”になる

 「自宅にはスーパーファミコンから最新機種まで、ほぼ全てのゲーム機を完備。いわゆるゲーマー」という清水被告。当初は自身のPSPにネットで取得した改造プログラムを組み込んで、違法ソフトを使用していたという。

 ただ、ある日、この改造プログラムが“カネ”になることを知る。ネットオークションで改造プログラムとPSPが2万円程度で取引されていたからだった。

 これなら自分でもできる-。生活費に困っていた清水被告は平成23年