予備校事件

京都府宇治市の学習塾で小学6年生の堀本紗也乃(さやの)さん(当時12歳)が殺害された事件から10日で1年になるのを前に、父親の恒秀さん(43)が現在の心境をつづった手記を報道各社に寄せた。恒秀さんは2月の初公判後の会見で「娘を助けてやれなかった」と無念の思いを吐露。学習塾での事件当日までのやり取りを詳述した文書を配り、「度重なる嫌がらせを受けた娘の姿を伝えたかった」と訴えた。その後も公判の傍聴を続けている。手記の内容は次の通り。
 事件の日から1年が経(た)とうとしています。
 昨年の12月初旬は、娘紗也乃は、夜遅くまで勉強していました。
 仕事から帰ると、夜遅くても、二階の部屋からトントンと階段を下りてきて、出迎えてくれていました。お菓子を買って帰ることを楽しみにしてくれていたと思います。
 12月9日事件前日夜も、アイスクリーム、メロンパン、プリンなどを買って帰り、アイスクリームを分け合って食べたことを覚えています。12月10日の朝、メロンパンを食べた後、「プリンは家に帰って食べるわ」と言っていました。
 事件後生活は一変しました。
 通夜、葬式の時、食べられなかったプリンを供えました。今でも、時折仕事帰りに、お菓子を買って帰り、供えています。家に着いても階段を下りてくる音は聞こえません。
 神明小学校と東京で通っていた杉並第二小学校の友達や先生方が折ってくれた千羽鶴を供えさせてもらっています。
 娘の笑顔を見られない寂しさには、少しは慣れましたが、悲しみは少しも癒やされることはありません。
 今は、天国からみんなを見てくれていると思います。時々、天国で楽しくしている夢を見せてくれます。このことは、私たちにとって唯一の救いです。
 まもなく、第5回公判を迎えます。これまでの公判の中でも被告人らの言動は欺瞞(ぎまん)に満ちており、娘の命を奪った上に死してなお娘の名誉も汚し続けています。私たち被害者の心情をもてあそぶものであり、許せない気持ちでいっぱいです。
 娘の友達や娘をよく知る方々は、『紗也乃はそんなこと言う子じゃない。私たちの紗也乃があんなふうに言われ報道されとてもつらい、悔しい』など伝えて下さいます。
 裁判に直接参加することはできませんが、娘の無念とともに闘ってまいります。
 正義を信じている。
 平成18年12月
堀本恒秀

(毎日新聞) – 12月8日19時40分更新